スマートホームがひとつのネットワークに統合されるとき――Matter 1.6のJoint FabricとSchlage Sense ProのUWBロック
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はじめに:「別々のアプリ」が消えていく
スマートホームの最大の不満は、デバイスごとにアプリが分かれていることだった。照明はApple Home、エアコンはGoogle Home、鍵はメーカー専用アプリ――。この煩わしさを解消するために策定されたのが、スマートホーム統一プロトコル「Matter」だ。
2026年6月、Matterの最新仕様「バージョン1.6」が発表された。中核となるのは「Joint Fabric」と呼ばれる機能で、Apple Home、Google Home、Amazon Alexaといった異なるエコシステム間で、単一のMatterネットワークを共有できるようになる。これまで各エコシステムは独立したネットワーク(ファブリック)を構築していたが、Joint Fabricにより一つのネットワーク上で複数プラットフォームが同時に動作する。
一方、スマートロックの分野でも画期的な製品が登場した。Schlageの「Sense Pro」は、UWB(超広帯域)技術を採用した初めてのスマートロックで、近づくだけでドアが開く。Apple Home Keyのハンズフリー解錠に対応し、Matter over Threadにも対応している。
本記事では、Matter 1.6のJoint Fabricがスマートホームの在り方をどう変えるのか、そしてSchlage Sense Proがセキュリティと利便性の両立をどう実現しているのか、最新動向を整理する。
Matter 1.6がもたらす「Joint Fabric」の意味
(The Vergeの報じたところによると)Matter 1.6は、2026年6月にテキサス州オースティンで開催された「Unify」カンファレンスで発表された。今回のアップデートでは新しいデバイスタイプは追加されていないが、ユーザー体験を根本から改善する重要な機能が含まれている。
Joint Fabricは、その名が示す通り「共同の布」を意味する。これまでのMatterでは、一つのデバイスを複数のエコシステムで制御するために、各アプリに個別にデバイスを追加するか、煩わしい共有手順を踏む必要があった。Joint Fabricでは、デバイスを一度ネットワークに追加するだけで、すべての対応エコシステムからアクセス可能になる。
具体的な動作イメージ
例えば、リビングのスマート照明をApple Homeに追加したとする。従っていれば、Google HomeアプリやAmazon Alexaアプリにも個別にデバイスを追加する手間が発生していた。Joint Fabric環境下では、一度のペアリング作業で、Apple Home、Google Home、Alexaのすべてから照明を制御できる。
これはスマートホーム版の「共同銀行口座」のような仕組みだ。各プラットフォームには署名権限が与えられ、一つのネットワーク上で複数の管理者が同時にアクセスできる。
NFCペアリングとスレッド1.4対応
Matter 1.6にはもう二つの実用的な改善がある。一つはNFCによるセットアップ対応で、従来のQRコードスキャンに代わり、スマートフォンをデバイスにタップするだけでペアリングが完了する。電源を投入する前にデバイスを事前に登録できるため、スマート電球や配線型スイッチの設置時にも便利だ。
もう一つは、スレッド(Thread)1.4への対応だ。スレッドはMatterの主要な通信プロトコルの一つで、低消費電力と低遅延を特徴とする。最新バージョンのスレッド1.4では、ネットワークの安定性と診断機能が向上している。
エアコン制御の標準化:「Thermostat Suggestions」
今回のアップデートで注目すべき機能に「Thermostat Suggestions」がある。これはエアコンなどの温度制御デバイスに対し、異なるエコシステム間で「推奨」を仕組み化する機能だ。
例えば、Apple Homeの自動化で「帰宅時に26度に設定」している場合、別のプラットフォームが一時的に温度を変更しても、数分後の自動制御で元の設定に戻る。これにより、プラットフォーム間の競合が防止され、ユーザーの意図が優先される。また、電力会社の省エネプログラムに加入している場合でも、各プラットフォームの設定と干渉することなく動作する。
Schlage Sense Pro:UWBが解錠の常識を変える
(The VergeおよびSchlageの公式発表に基づく)スマートロック市場に、新たな基準を提示する製品が登場した。Schlageの「Sense Pro」は、2025年のCESで発表されて以来、約一年半を経て2026年6月29日に発売される。価格は399ドルだ。
この製品の最大の特徴は、UWB(Ultra-Wideband:超広帯域)技術を採用している点にある。UWBは数センチ単位の距離測定が可能な無線技術で、Schlage独自の「Converge」技術を用いて、スマートフォンの速度・軌道・動作を計算し、ユーザーがドアに近づいた瞬間に自動的に解錠する。
ハンズフリー解錠の実用性
従来のスマートロックは、アプリを開く、指紋をかざす、あるいは暗証番号を入力するといった操作が求められた。Sense Proでは、対応するiPhoneやApple Watchを持っているだけで、玄関に近づくと自動的にドアが開く。両手がふさがっている時や、暗闇の中で鍵を探す必要がなくなる。
ただし、UWBによるハンズフリー解錠はApple Home Keyに限定される。Samsung WalletやGoogle Walletでのデジタルキーは、今後のアップデートで対応予定とされている。
Matter over ThreadとAliro対応
Sense Proは、Schlage初の「Matter over Thread」対応製品でもある。Apple Homeハブ(Apple TV 4KやHomePod)を介して接続され、低遅延かつ安定した動作を実現する。
さらに、スマートロック標準「Aliro」にも対応する。AliroはUWBによるハンズフリー解錠とNFCによるタップ解錠をサポートする業界標準で、Schlage Sense Proはこの規格に準拠する。これにより、将来のスマートフォンやウォレットアプリとの互換性が確保される。
設計と機能の詳細
Sense ProはWi-Fi内蔵で、Schlage HomeアプリまたはApple Homeアプリから遠隔管理が可能。バッテリー寿命は「標準的な使用条件」で最大6か月とされ、バッテリー切れ時にはUSB-Cポートから一時的な電力供給が可能となっている。非常口としてのUSB-Cポートを備える点は、スマートロックの実用性を高める重要な設計判断だ。

なぜ今、統合とセキュリティが同時に進むのか
スマートホーム市場は2026年、大きな転換点に直面している。一方ではMatter 1.6による「統合」が進み、もう一方ではSchlage Sense Proのような「セキュリティの高度化」が同時に進行している。
この二つのトレンドは、一見すると異なる方向性のように見えるが、実は同じ「スマートホームの成熟」という文脈にある。
第一に、消費者のニーズが「便利さ」から「安全で便利な日常」へと進化している。スマートロックはその最たる例で、単にアプリで開閉できるだけでなく、物理的なセキュリティとデジタルの利便性を両立させることが求められている。
第二に、業界標準の整備が製品の高度化を支えている。Matter 1.6のJoint Fabricが異なるエコシステム間の相互運用性を高めることで、各メーカーは「他社との接続」ではなく「自社の強み」に集中できる。SchlageがUWB技術に注力できる背景には、MatterやAliroといった標準規格が接続基盤を提供していることがある。
第三に、日本の住宅環境への影響も大きい。日本の住宅は木造が多く壁厚が薄いため、UWBのような高精度な距離測定技術が有利に働く。また、Matter対応が進むことで、日本のメーカーがグローバル市場に参入しやすくなる。
編集部の視点
スマートホームは「ガジェットの寄せ集め」から「生活の基盤」へと変わりつつある。Matter 1.6のJoint Fabricは、その移行を加速させる重要な一歩だ。異なるメーカーのデバイスがシームレスに連携することで、消費者は「どのアプリで操作するか」ではなく「どう暮らしたいか」に集中できるようになる。
Schlage Sense ProのUWBハンズフリー解錠は、セキュリティと利便性のバランスを示す好例だ。鍵という物理的な対象をデジタル化する際、単に「スマートにする」だけでなく、認証の信頼性と非常時の対応まで設計に盛り込まれていることが重要である。
日本市場では、2026年後半からMatter対応デバイスの拡充が予想される。すでにグーグルの新Google HomeスピーカーやAmazon Sidewalkの日本上陸が報じられており、スマートホームの接続基盤が整いつつある。こうした環境下で、Matter 1.6とSchlage Sense Proのような先進的な製品は、日本のスマートホームの次の姿を示唆している。
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✍️ この記事を書いた人
スマートホーム愛好家として 50 台以上の IoT 製品を自宅でテストしてきた実務経験を持つ。HEMS、音声アシスタント、スマートロック、カメラセンサーなど、住まいに関わるあらゆる IoT 機器の導入・運用・比較評価を専門とする。
